突然ですが、ご自分のお名前の第1文字第5画目は何でしょうか?
と聞かれて、多くの人は空に漢字を書きながら思い出そうとするはずです。
と言われても思い出せないはずですが、画面を開くとどこに有るかを手が覚えています。
そろばんができる人なら計算中は手が動きます。
車のキーは始動の際はどちら周りでしたか?
と聞かれれば、実際に右手を回して考えるはずです。
このように、記憶と運動は密接に関連しています。
これは、脳科学の分野でも知られていることで、暗算をする際には、脳の運動機能を司る部位も活動しています。
不慣れな運動を新たに学習する際は、大脳皮質と呼ばれる高次の機能を司る部位が活動しますが、ある程度慣れてしまえば、その機能は低次の部位に管轄が移り、比較的省エネに実行されます。
なので、形の動作は「この動きは〇〇で、コレは××で、次は△△で...」などという風に、手順を暗記しようとするとうまくいきません。漢字を諳んじてかけるように体に覚えさせねばなりません。
これだけ書くと「習うより慣れろ」を小難しく述べたのみです。
無想会には違う部分があります。
通常、1つの形を覚えるのに数週間かかるようですが、自分はクーシャンクーなんかでも4~5回で覚えました。これは自分だけではなく、他の会員の方々も30分もあれば覚えていました。
これはなぜでしょうか?
「形には脈絡がある」「分解はしない」「敵はただ一人」
というのを理解しているからです。
言い換えれば、無想会の形解釈は、自然な脳の動き方に沿っているのです。
科学的な説明として、自分の知りうるだけでも2つ要素があります。
1つはセグメンテーションです。
例えば、以下の数字を覚えて下さい。
「794314110119」
覚えられたでしょうか?
ほぼ不可能だと思います。しかし、こうするとどうでしょうか?
「794 314 110 119」
これならいつまでも覚えられるのです。
なぜなら、
794(平安京)
314(円周率)
110(警察)
119(消防)
という風に、全て既知の数字だからです。
無意味な数字の羅列、未知の連続なら覚えられませんが、既知の集合ならば簡単に覚えられるのです。
車のキーが左回りか右回りかは覚えていませんが、とにかく回る方にに回せば車は動きます。間違ってもキーを更に押し込んだりぶっ叩いたりはしないはずです。
相手が懐にいるなら入るのは肘か膝です。
そして、相手が消失することはありえませんから、次の技もそいつに入っていくはずです。
ならば、この〇〇という動きは相手を動かしているんだな、というのがわかってくるので、キーの回転のように 自ずから正解が分かります。
2つ目にストーリー記憶です。
例えば、桃太郎を最後に聞いたのはいつでしょうか?
自分は小学校の紙芝居か、トリビアの泉(テレビ番組)辺りだと思います。10年以上前の可能性があります。
しかし、「桃から生まれてサル・キジ・イヌをきびだんごで懐柔して、鬼を倒し爺さんと婆さんのもとに帰った」
というストーリーは覚えています。
一昨日の晩ごはんすら覚えていないのにです。
あらゆる文化で神話として、コミュニティの起源・正当性・信仰・教訓を継承します。これは、人間の脳がストーリーを記憶するようにできているからでしょう。
実際に、「記憶の宮殿」という暗記のテクニックがあります。
古代、スピーチの最中に宮殿の屋根が崩れ、観客の大勢が死んでしまいました。遺体は激しく損傷し身元の判定ができなかったのですが、登壇していた人間は次々と言い当てました。彼は壇上から客席の位置とそこにいた人物を紐つけて覚えていたのです。
なぜそんなことができたのか?
これは、人間がかつては狩猟採集で暮らしており、時には遠くまで食物集めや狩りに赴きますから、家に帰るために地形や場所を覚える能力が高くなったためです。
これは言い換えれば、時系列的な記憶、すなわちストーリーによる記憶です。
「朝にこの場所にきた、昼はここ、夜はあそこ、ならばこの逆の順にたどれば家に帰れる」
という風に、自身の探索のストーリーを覚える癖が脳にはあるのです。
そのため、未開の民族が狩猟採集に赴いていない時の会話は70%がストーリーで、ビジネスマンは相手の記憶に自分のアイデアを植え付けるためにストリーテリングを学びます。
このように、我々はストーリーの記憶が得意なのです。
そして空手の形には明確にストーリーがあります。
桃太郎が鬼ヶ島についたら、やることは鬼退治しかありません。
鬼ヶ島についた直後に突然桃から生まれたり、サルが味方になった後、きび団子をもらったりすると、脳が混乱するのです。
1セグメンテーション
2ストーリー記憶
無想会の形解釈は上記1・2を同時に満たします。
形をパート分割することが可能で、各々のパートは直感的で覚えやすいです。
それがストーリー的に相手が消失することなく連続するので覚えやすいです。
これがあれば、漢字の書き順の如く、アプリの位置の如く、キーの回転方向の如く、次に行うべき動作が自ずと決まります。一意に定まります、収斂するのです。